色川大吉 『ある昭和史 自分史の試み』

色川大吉 『ある昭和史 自分史の試み』

Tという元陸軍伍長のトラック運転手がいた。 私の家に仕事のことで出入りしていたが、ある日、私にこんな事を話した。 その姑娘クーニャン(中国娘)をみんな手ごめにした後、気絶していた娘の膣に、そばに転がっていた一升瓶を突っ込み、どこまで入るか銃底で叩きこんでみた。 そしたら血を噴いて骨盤が割れて死んでしまった、と。 それを一片の悔恨の気持ちをあらわさず、むしろ毒々しい笑いを頬に浮かべて、自慢そうに話した時の態度を、私は一生忘れることができない。 Tは日本に帰れば善良な労働者であり、平凡な家庭の父であり、礼儀正しい常識人であった。 その人の表面の平静さの奥にかくされた恐ろしい人格の崩壊ぶりは、帝国主義戦争の結果だと言ってすますにはあまりに無残すぎる。 こういう種類の日本人がこんどの戦争で何十万人も生まれ、そして、今なお生き残っていることを私たちは片時も忘れてはならない。